Dedicated to Prof. Yoshinori Asakawa
2011年度 生薬学会賞受賞 恩師 浅川義範先生とのこと。


学生時代の指導教授は、学芸学部出身理学博士の植物化学者。
その恩師、浅川義範先生が、本年度の日本生薬学会生薬学会賞を受賞。
(題目:Marchantiophyta: Chemical Diversity, Biological Activity and Chemosystematics)

教室仲間ともに植物(コケ、キノコなど)の観察・採集で訪れた
屋久島(世界遺産登録前)、眉山、剣山、淡路島、石鎚山、大山・・・懐かしくなりました。
昔のスライドを発見しましたので、受賞記念Weblog。

お祝いメールに返信いただきました。
海外では植物成分研究や微生物変換が好評で、出版、基調講演で多忙とのこと・・・生涯現役!情熱の先生です。


1993年 屋久島にて、二人ともお腹にビニール袋をつめてます。

浅川先生といえば、ルイ・パスツール大留学時からのコケ(苔類)の化学成分研究が有名です。
(The Pergamon Phytochemistry Prize and Certificate from Elsevier Science in 1997)
Guy Ourrisson先生に師事。兄弟弟子にノーベル賞受賞者Jean-Marie Pierre Lehn。

植物が作り出す化学成分(フィトケミカル)は、様々な生理活性や薬理活性を示す興味深いものが存在します。
新薬の多くが、植物成分、天然物の化学構造がヒントになっているともいわれます。

先生が世の中ではじめて発見報告した、コケ化学成分の一つにビスビベンジル類があります。
ポリフェノールの仲間で、近年も様々な生理活性、薬理活性が報告されています。


私の研究テーマの一つに、「ウスバゼニゴケ科苔類の化学成分研究」をいただきました。
橋本敏弘先生、豊田正夫先生らと共に新しいビスビベンジル類を抽出単離、
その特異な化学構造を明らかにすることができました。

 
ウスバゼニゴケBlasia pusilla 点々が藻類コロニー

化学成分研究は、植物採集、材料同定、植物材料仕分け、アルコール(溶媒)漬け、
エキス抽出、分取、構造決定、単離成分活性検索の流れで行います。
薬学部で行われる成分研究では、活性成分だけを狙うことが多いのですが、
浅川先生は、植物進化の過程を化学成分(構造・骨格)で説明する壮大なテーマ(Chemosystematics)があり、
この方法により、多くの新規骨格、新規成分を報告されています。

当時、仙台の学会[1]で成果発表させていただいた後、2人、お寿司屋さんであまりの美味、私はたらふくいただき、
先生のポケットマナーで高額○万円払っていただきました。今でも恐縮です。

ウスバズニゴケ科苔類は、葉状体中にコロニー状藍藻類が共生している特徴があり、
ウスバゼニゴケ(Blasia pusilla)とシャクシゴケ(Cavicularia densa)の2種類が知られています。

ウスバゼニゴケ(B. pusilla)からは、ポリフェノール生合成出発物質シキミ酸とともに
ビスビベンジルRiccardin C(リカルディンC)および、
その分子間カップリング二量体を単離・構造決定し、Pusilatin類(プシラチン類)と命名しました。
さらに、Pusilatin類のDNAポリメラーゼβ阻害活性、細胞毒性を確認しました[2]
Pusilatin類は、クシノハスジゴケ(Riccardia multifida)でも単離、二量体構造を化学変換にて確認[3]

その後の研究により、Riccaridn Cは核内受容体LXRリガンドとして、アナログ合成もされているようです。HDLが上がるらしい。
薬学会会誌ファルマシアにも紹介されていました。ビフェニール構造は、ARBのように受容体親和性が高いようです。
水酸基(-OH)の位置も重要らしいです[5]


ビスビベンジル二量体Pusilatin類、 ビスビベンジルRiccardin類の化学構造

シャクシゴケ(C. densa)からは、Riccardin C分子内カップリング体を単離・構造決定、(+)-Cavicularin(カビキュラリン)と命名しました。
Cavicularinは、不斉炭素がないのに、キラル(面軸不斉)を示すと同時にベンゼン環がひん曲がっている化学構造に興味深いものでした。
後に天然シクロファン(Metacyclophane)だと気づきました。植物中ではイオンを運んでいたりして・・・?


Cavicularinの4つの構造異性体(天然物はaかb)


CDスペクトル(c2.5x10-5g/ml, MeOH)

試料が少量、TLCブロード、HPLC分取困難でしたので、ダメもとでTLC分取、X線解析結晶化の奇跡でした[4]
超分子化学の祖、Lehn先生が研究室にやって来た際、興味深くCavicularinの話を聞いていただきました。(ようでした。)


X線結晶解析によるCavicularin立体相対構造(ORTEP図)


ウスバゼニゴケ科苔類のビスビベンジル生合成

さらに当時、「こんなものは、自然界から始めてだ」と論文記載したせいか、
今だに、合成ターゲットとして、オタク?な大学、製薬会社の化学者が興味を持ってくれています。[6]
絶対構造(右左)決定のIFは高いと思われます。(当時、水酸基のキラル置換を行いましたが、結晶化しませんでした。)

個人的にビスビベンジルの類似構造体として興味深いものに、
赤ブドウのレスベラトロール、Bushwillow treeのコンブレタスタチン類、禁止薬のジエチルスチルベストロールがあります。

貴重な経験にあらためて感謝。


600MHz 1H NMR Cavicularin と Riccardin C 比較 (in CDCl3)


[1] 吉田達彦, 豊田正夫, 菅由紀子, 高岡茂, 橋本敏弘, 浅川義範 (1996)
ウスバゼニゴケ科苔類から得られるフェノール性化合物
天然有機化合物討論会講演要旨集 (38), 397-402.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=en&type=pdf&id=ART0008705373

[2] T. Yoshida, T. Hashimoto, S. Takaoka, Y. Kan, M. Tori, Y. Asakawa, J.M. Pezzuto, T. Pengsuparp and G.A. Cordell. (1996)
Phenolic Constituents of the Liverwort: Four Novel Cyclic Bisbibenzyl Dimers from Blasia pusilla L.
Tetrahedron 52: 14487-14500. (doi:10.1016/0040-4020(96)00889-7)

[3] T. Yoshida, M. Toyota, and Y. Asakawa (1997)
Isolation, Structure Elucidation, and Chemical Derivatization of a New Cyclic Bisbibenzyl Dimer, Pusilatin E,
from the Liverwort Riccardia multifida subsp. decrescens
J. Nat. Prod., 60 (2): 145-147 (doi:10.1021/np9605697)

[4] M. Toyota, T. Yoshida, Y. Kan, S. Takaoka and Y. Asakawa (1996)
(+)-Cavicularin: A novel optically active cyclic bibenzyl-dihydrophenanthrene derivative from the liverwort Cavicularia densa Steph.
Tetrahedron Letters 37: 4745-4748. (doi:10.1016/0040-4039(96)00956-2)

[5] K. Dodo, A. Aoyama, T. Noguchi-Yachide, M. Makishima, H. Miyachi and Y. Hashimoto (2008)
Co-existence of a-glucosidase-inhibitory and liver X receptor-regulatory activities and their separation by structural development.
Bioorg. Med. Chem., 16(8): 4272-4285. (doi:10.1016/j.bmc.2008.02.078)

[6] Kostiuk, S.L., Woodcock, T, Dudin, L.F., Howes, P.D. and Harrowven, David C. (2011)
Unified syntheses of cavicularin and riccardin C: addressing the synthesis of an arene adopting a boat configuration.
Chemistry: a European Journal (doi:10.1002/chem.201101550) (in press)


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